鹿児島地方裁判所 昭和48年(ワ)353号 判決 1976年1月30日
原告 滝田静夫
右訴訟代理人弁護士 池田
被告 名瀬市
右代表者市長 大津鉄治
右訴訟代理人弁護士 和田久
主文
一、被告は原告に対し、金九五七万九、六一〇円および内金八七〇万九、六一〇円に対する昭和四七年八月一四日から、内金八七万円に対するこの判決確定の日の翌日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告のその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
四、この判決は主文第一項に限り、原告が金一五〇万円の担保を供したときは、仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
(一) 被告は原告に対し、二、一〇一万九、六三五円およびこれに対する昭和四七年八月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言。
二、被告
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第二、当事者の主張
一、請求原因
(一) 原告は、昭和四七年八月一四日午後四時四七分ころ、自動二輪車(以下「事故車」という)を運転して市道一四四号線を名瀬市小俣町方面から春日町方面に向け進行中、同市春日町二番三号俊良橋手前において、舗装道路上に転倒した(以下右事故を「本件事故」という)。
≪以下事実省略≫
理由
一、請求原因(一)の事実については、当事者間に争いがない。そして、≪証拠省略≫によれば、原告は本件事故により、頸部挫傷、頸部捻挫、外傷性頸部症候群およびバレーリュー症候群の傷害を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
二、まず本件事故の原因につき検討するに、≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
原告が進行していた道路はその進行方向前方で三差路となっており、原告は同交差点で名瀬市春日町方面へ右折するため道路中央寄りを進行していた。右交差点の手前約二・五メートル、道路左側端(原告の進行方向からみて左の意。以下左右の用語はすべて原告の進行方向からみた位置を示す)から約二・七メートルの位置には制水弁が設置され鉄蓋がかぶせられていたが、本件事故の発生した少くとも一週間位前から右鉄蓋を受ける鉄輪の左側部分が一部破損していたため、荷重が同鉄蓋の左側部分にのみかかった場合には、鉄蓋の右側が約三ないし五センチ持上がる状態にあった。そして、偶々原告の運転する事故車が右鉄蓋の左側部分を進行したため、同鉄蓋の右側部分が持上がって事故車のブレーキ、マフラーおよびスタンドに接触し、その衝激で事故車が転倒して原告は前記傷害を受けるに至った。
三、次に、被告の責任につき検討する。
(一) 本件事故の発生した道路が、被告の管理する市道であることについては、当事者間に争いがない。そして、≪証拠省略≫によれば、右道路は幅員約六メートルの舗装道路で、常時バス、その他の車両等が通行していること、本件制水弁鉄蓋は道路中央寄りに路面と平面になるように設けられ、同鉄蓋の上を車両が通行することは当然予想される状態にあったことが認められ、右認定に反する証拠はない。
(二) 右認定の事実に照らせば、本件道路の管理者たる被告は、本件制水弁鉄蓋が本件道路を通行する車両等の交通に危険を及ぼさないよう管理しなければならないものというべきところ、被告が前記二で認定のような制水弁鉄蓋の破損を放置していたことは、本件道路を通行する車両に危険を及ぼすものであり、本件道路の管理には瑕疵があったものというべく、被告は国家賠償法第二条に基づき、本件事故によって生じた後記原告の損害を賠償する責任がある。
四、そこで、本件事故による原告の損害について検討する。
(一) 付添看護料
≪証拠省略≫によれば、原告は昭和四七年八月一五日から同年一二月一日まで一〇九日間名瀬市内の泰江外科医院に入院し、右入院期間中付添看護を要し、原告の妻が付添看護したことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、右看護料としては、原告の傷害の程度等を考慮して一日当り一、〇〇〇円の割合で計算した一〇万九、〇〇〇円をもって、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(二) 付添人食事代
右(一)に認定の付添看護料は、付添看護のため通常要する一切の費用を含むものであるから、付添人の食事代として要した費用を、別途損害として請求することはできないものというべきである。
(三) 入院雑費
≪証拠省略≫によれば、原告は右(一)に認定のとおり泰江外科に一〇九日間入院したほか、昭和四八年一月一八日から同月二七日まで一〇日間国立鹿児島病院に、同月二七日から同年三月三〇日まで六三日間児玉国秀整形外科医院に入院して治療を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、右入院期間中の日用雑貨購入費、栄養補給費、その他の雑費としては、一日当り三〇〇円の割合で計算した五万四、三〇〇円(昭和四八年一月二七日は、国立鹿児島病院と児玉整形外科とに入院が重複しているので、通算入院期間は一八一日となる)を要したものと認めるのが相当である。
(四) 休業損害
1、≪証拠省略≫によれば、原告は本件事故前魚介類のテンプラ製造販売業を営み、同営業による売上額から魚介類仕入額を差引いた年間粗利益は、昭和四四年二六六万一、八七〇円、昭和四五年二八一万五、九七六円、昭和四六年二七六万九、二〇五円で、右三年間の年平均粗利益は二七四万九、〇一七円であること、右材料代以外の経費として年間、食用油代約二四万円、調味料代約一三万円、商品配達用の自動車ガソリン代一二万円、燃料用重油代九万六、〇〇〇円を要することが認められる。ところで、右営業の経費としては、右認定のほかさらに自動車および備品の減価償却費、維持費、その他の雑費が必要であることは明らかであり(因みに、≪証拠省略≫によれば、原告は昭和四五年に車検代として一〇万円を支払っていることが認められる)、前記認定以外の経費としては一ヵ月当り一万円の割合によって計算した年間一二万円を要するものと認めるのが相当である。そして、さらに≪証拠省略≫によれば、原告の右営業については原告の妻が一日二、三時間労務に従事していたこと、右妻の労務に対する一般的水準による賃金相当額は一日六〇〇円程度であることが認められるから、妻の寄与による収入分を年間二一万九、〇〇〇円と認めるのが相当である。右粗利益から右経費および妻の寄与分を差引いて計算すると、原告のテンプラ製造販売による平均年収は一八二万四、〇一七円と認められる。成立に争いのない甲第四号証によれば、原告は税務署に対し、昭和四六年度の所得を二二五万五、三四五円として申告していることが認められ、さらに≪証拠省略≫によれば、右はすべてテンプラ製造販売による所得として申告されているものであることが認められる。しかし、≪証拠省略≫によれば、右申告は本件事故後に増額修正されたものであることが認められること、および本項冒頭掲記の証拠に照らして考えると、前記甲第四号証記載のような所得の申告がなされているからといって直ちにこれを原告のテンプラ製造販売による真実の年収額と認めることはできず、他に前記認定を動かすに足りる証拠はない。
2、≪証拠省略≫によれば、原告は本件事故前、前記テンプラ製造販売業を営むかたわら新聞の配達販売業を営んでいたこと、右新聞販売の売上額から販売元への納入金を差引いた粗利益は、昭和四七年五月四万九、七五〇円、同年六月五万三、〇九〇円、同年七月四万九、五九〇円であり、右三ヵ月の月平均粗利益は五万〇、八一〇円となることが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、右販売のための配達用自動二輪車のガソリン代、減価償却費、その他の経費として一ヵ月五、〇〇〇円程度を要するものと認めるのが相当であるから、右粗利益および経費を基礎として計算すると、原告の新聞販売による年収は五四万九、七二〇円となる。
3、≪証拠省略≫によれば、原告は本件事故のため、本件事故翌日の昭和四七年八月一五日から昭和四八年三月三〇日まで二二八日間稼働できなかったことが認められるから、前記1および2の年収合計額二三七万三、七三七円を基礎として算定すると、原告は右期間稼働できなかったことにより一四八万二、七七二円(円未満切捨て。以下同じ)の収入を失ったこととなる。
(五) 逸失利益
≪証拠省略≫によれば、原告は本件事故の後遺症として、頸椎の著しい運動制限および耳鳴り、頭痛、吐き気等の症状が残り、右後遺症は昭和四八年四月ころその症状が固定したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
ところで、≪証拠省略≫によれば、医師内山一雄は、原告の後遺症等級を自動車損害賠償法施行令第二条別表第六級第四号所定の「脊柱に著しい奇形または運動障害を残すもの」に該当する旨判断していることが認められる。しかし、本項冒頭掲記の証拠によれば、原告の後遺症はX線撮影、脊髄造影および筋電図検査では異常はみられず、右後遺症は頸椎自体の異常によるものではなく、軟部組織の損傷によるもので、時間の経過により自然に快復していくものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右事実に照らせば、原告の後遺症は自動車損害賠償法施行令第二条別表第七条第四号所定の「神経系統の機能に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に該当し、右後遺症による原告の減収率(労働能力喪失率)は五六パーセントと認めるのが相当である(因みに、≪証拠省略≫によれば、原告は現在自動車を運転して野菜の移動販売を営み、月収七ないし一〇万円を得ていることが認められる。右月収額および前記(四)に認定の原告の本件事故前の年収額を基礎として原告の年間減収額を算定すると、一二七万二、七三七円ないし一六三万二、七三七円となり、一方前記(四)の年収額を基礎とし、減収率を五六パーセントとして算定した年間減収額は一三二万九、二九二円となるから、右減収率は原告の現実の稼働状況ともよく符合するものというべきである)。そして、右後遺症の継続期間は本件事故後七年(前記後遺症固定時からは約六年と四・五ヵ月)とみるのが相当である。
そこで、前記(四)に認定の年収、右減収率および本件後遺症の継続期間を基礎として、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除した逸失利益の現価を算出すると七一九万三、二〇一円となる(六年四・五ヵ月の現価率は、七年の現価率五・八七四三と六年の現価率五・一三三六との差<〇・七四〇七>を比例配分<0.7407×4.5/12=0.2777>して算出した五・四一一三として計算。2,375,737円×0.56×5.4113=7,193,201円)
(六) 慰藉料
前記認定のような原告の傷害の程度、入院期間、後遺症、その他本件にあらわれた諸般の事情を斟酌し、本件事故による原告の精神的苦痛を慰藉すべき金額としては二二〇万円が相当と認められる。
五、次に、被告の抗弁につき検討するに、被告が本件事故による損害の填補として二三二万九、六六三円を支払ったことは、当事者間に争いがない。そこで、前記四に認定した損害の合計額一、一〇三万九、二七三円から右弁済額を差引くと、その残額は八七〇万九、六一〇円となる。
六、右原告の損害賠償債権の残額からすれば、本件訴訟の委任による弁護士費用は、八七万円の限度で被告に負担させるのが相当である。
七、よって、原告の本訴請求は、被告に対し前記五および六の合計九五七万九、六一〇円および内金八七〇万九、六一〇円(弁護士費用以外の分)に対する本件事故発生の日である昭和四七年八月一四日から、内金八七万円に対するこの判決確定の日の翌日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを認容し、その余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大西浅雄 裁判官 湯地紘一郎 谷合克行)